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仙台高等裁判所 昭和36年(ラ)129号 決定 1963年3月15日

抗告人 藤倉正巳

相手方 株式会社 岩手銀行

主文

原競落許可決定中、同決定別紙目録〈省略〉記載の宅地に対する部分を取消す。

右宅地に関する本件競落はこれを許さない。

本件抗告中その余の部分を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

一、本件記録によれば、原裁判所は、昭和三四年三月一四日同裁判所および盛岡市の各掲示場に、法定の公告事項を具備した最初の競売期日の公告をし、その後二回の新競売期日の公告にも、同様法定の公告事項を具備した公告をしたが、その後五回にわたつて競売期日を変更したものであるところ、昭和三六年一二月六日に同裁判所、七日に同市の各掲示場にした公告にいたるまで各変更期日の公告には単に期日変更のみの公告をし、右公告にもとずき本件競落を許可したものであることが明らかである。

しかしながら、同裁判所民事訟廷事務主任裁判所書記官根本利彦の回答によれば、同裁判所の取扱として期日変更のみの公告をする場合には、前にした法定の記載事項を具備した公告が依然撤去されずに掲示されてあることを確認した上これに添付するか、もしくは、これに近接した最も見易い箇所に貼付して、これをしているのであつて、本件についても上記の取扱の例によつたものであることが認められ、また、本件不動産所在地である盛岡市の掲示板における公告も亦右同様の方法によつたものであると推認するを相当とすべく、右認定を左右するに足る資料はない。したがつて、抗告人の一の主張は理由がない。

二、記録によれば、原裁判所は、鑑定人柳渡慶一郎の昭和三四年三月二日付本件宅地の評価額六九四万円(坪当り一六、九九八円)を採つて、同月一四日本件宅地の最低競売価額とする競売期日の公告をしたが、同年四月一日の競売期日に競買を申出る者がなかつたので、これを低減して五五五万円とし、同年六月三日の新競売期日を指定して公告したが、これまた競買を申出る者がなく、さらに、これを四四四万円に低減して、同年一〇月七日の新競売期日を指定して公告したが、右期日は債権者、債務者の合意によつて変更され、その後に指定された同年一二月一六日、昭和三五年三月八日、同年一二月二〇日、昭和三六年一〇月二四日の競売期日は前同様の理由で変更され、同年一二月六日および七日に競売期日を同月二二日とする期日変更の公告においてもそのままの価額を維持して(原決定別紙目録記載の建物の最低競売価額金二八万円と合計して、金四七二万円とする)公告をし、これに基き同月二五日四四四万円をもつて(前記建物の最高競買価額金二八万円と合計して最高価を金四七二万円とする)本件土地(右建物とともに)の競落を許可したものであることが認められる。

抗告人は、本件土地の昭和三四年三月当時の一般市場価額は一坪当り二五、〇〇〇円以上であつたと主張するが、これを証明する資料はなく、かえつて、相手方代表者の書面による審尋の結果によれば、右原審鑑定人の評価が安きに過ぎたものとは認められない。

しかしながら少くとも右評価当時から市街地殊に市の主要駅附近の宅地の価額が異常な勢を以て高騰を続けていることは公知の事実であり、本件宅地も、盛岡市の市街地にありかつ同市の主要駅たる盛岡駅の近くにあるからその例にもれないことが明らかであるものというべきところ、右審尋の結果と抗告人提出の美富士不動産(代表者新海孫弌)作成の証明書とを併せて考えると、昭和三六年一二月当時の本件土地の価額は少くとも九、三九〇、六七〇円(坪当り少くとも二三、〇〇〇円)であつたことを認めることができるから、その価額は、公告にかかる最低競売価額四四四万円の二倍を超えることが明らかである。

そうすると、最初本件宅地の最低競売価額を定めた当時においては、その価額が相当であつたとしても、かかる事実並びに状勢下においては当時からすでに二年九月余を経過した前記最後の公告をした当時においては、右最低競売価額は、その間の地価の異常な高騰によつて、もはや正当な最低競売価額たる実を失つたものといわなければならない。したがつて執行裁判所としては、このような場合さらに鑑定人に右不動産の時価を評価させて最低競売価額を定めた上手続を進行せしむべきである。

しかるに、原審は、右手続をとることなく、前記評価額をなお相当なものとし、これをもととして最低競売価額を定めて公告をなし、本件競落を許可したものであつて、結局、それは、民訴六七二条四号に定める競売期日の公告に同六五八条所定の要件の記載がないこととなり、右公告に基づく本件宅地の競落許可は失当たるを免れない。

なお、記録を精査しても本件抗告中その余の部分を取消すべき事由を発見し得ない。

したがつて、原決定中右宅地の競落を許可した部分は不当であるからこれを取消すべく、その余の部分は相当であつてこの部分に対する抗告は理由がないからこれを棄却することとし主文のとおり決定する。

(裁判官 鳥羽久五郎 羽染徳次 小林謙助)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消す。との裁判を求める。

抗告の理由

原決定は、つぎの理由によつて取消されなければならない。

一、本件においては、最初指定された競売期日が五回も変更されたものであるところ、最初は適法な競売期日の公告がなされたが、右公告の撤去後各変更期日の公告がなされ、その各公告においてはそれぞれ新に指定された競売期日が公告されたゞけで、法定事項の公告はなされなかつたのであつて、右各公告は違法であり、本件競売は適法な公告を欠くから、本件競落は違法である。

二、鑑定人柳渡慶一郎の評価によれば、本件不動産のうちの宅地の価額は六九四万円というのである。右評価は、昭和三四年三月二日になされたものであり、本件宅地の公簿上の面積は四〇八坪二合九勺であるから、一坪あたり一六、九八〇円である。しかし、当時の一般市場価額は、一坪あたり二五、〇〇〇円以上であつた。しかも、右土地は、盛岡駅に近く、諸会社商店の進出に加えて附近に重要施設が相次いで建てられ、急速な発展を遂げ、道路の改修もなされて地価は騰貴し、昭和三六年一二月現在の実測一坪あたりの市場価額は四万円となつていた。本件宅地の実測面積は、四二三坪八合一勺であるから、その市場価額は、一、六九五万円である。しかるに、本件競落価額は、四四四万円であるから、市場価額の四分の一という著しい低廉である。

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